秋の風に呑まれて 


「歳三さん、お茶が入りましたよ」
「おう、悪いな」


土方は忙しそうに書類を動かしていた手を止めて、こちらに目をやる。


普段は千鶴が来たからと言って作業を途中で中断する、ということはしないから
ちょうど一区切りついたところだったのだろう。


「あんまり熱心にしすぎると、体にさわりますよ?」
 

こんな事を言っても『いまさら』であることは千鶴もよく分かっている。

京の町で新選組、鬼の副長として名を馳せていた時から、仕事に対する熱意は
まったく冷める様子を見せない。

下手をすると、3日間徹夜で一睡もしない時もある、ということを千鶴は知っていた。





そうは分かっていても、夫のことを案ずるのは妻の権利であり、
義務ではないだろうか。




「・・・・・・・息ぬきに、そとにでて散歩しませんか?」
「・・・散歩か」




へぇ、と土方が軽く目を見開く。
顎に無骨な手を当てて、何か考え込む素振りを見せる。




すぐに提案に乗らない土方を見て、
「あ、あの、良かったら、ですけど」とちいさく付け加える。



心配そうに土方を見つめる千鶴に視線を移し、かすかに土方が頬を緩ませる。



「別に嫌なわけじゃなぇよ。・・・・・・ただ」
「・・・・ただ?」




きられた言葉の続きを急かすように聞き返すが、土方はなかなか口を開こうとしない。

やはり仕事の邪魔をしてしまったのかもしれない、と思い直し、



「あの、・・・・やっぱり、」
「おいで、千鶴」




今の聞かなかったことにして下さい、と言おうとした口が突然の出来事にぽかんと
半開きになったまま閉じてくれない。



普段の土方からは想像もできない優しい言葉に驚いて、固まってしまう。



徐々に自分の中で重なる土方の声を聞いて、ようやくその意味を理解する。
分かってしまうと、火が出てきそうなくらい顔が熱いのが自分でも分かる。


恥じている自分が恥ずかしい。




「ほら・・・・・こいっつってんだろ」
「は、はい!」



いつも通りの口調に戻った土方に安心したような、残念のような感情を覚えつつ、
ぱたぱたとそばへ近寄る。



それを確認し、土方が隣の空いた空間を顎で指し示す。
隣に座れ、ということなのだろう。




なにをするんだろう、と思いつつも、千鶴がぺたんと腰をおろす。
秋の風を受けている畳はひんやりと冷たく、気持ちが良い、と思った。



「あの、どうかしたん――――」




顔をあげ、千鶴が不思議そうに問いかけるのと同時に、隣の土方がゆっくりと
かたむいて、とさり、と千鶴の膝に寄りかかった。

大きな影は、千鶴の膝に頭を乗せたまま、何も言わずに微動だにしない。




「と、歳三さん?」
「・・・・・・すこし寝かせろ」



そうぶっきらぼうに言い放つと、静かに目を閉じる。






そういえば。最近よく大きなあくびを何度もしていたような気がする。
土方のことだ、睡眠時間を削って仕事に没頭していたのだろう。





土方のいまの行動に思い当たる節をみつけ、思わず顔がふっと緩む。



畳へ流れようとする漆黒の髪に触れると、さらさらと手になじんで心地よい。
もう起きる気がないのか、千鶴が手を伸ばしているというのに目を開かない。





端正な顔に長いまつげの影が柔らかくおちる。


部屋の中に涼しい風が吹き込んできて、わずかに影が揺れた。






Fin.....


実は長いスランプにはまりこんでおりました、はい。
抜けた!とおもって書いたら不完全燃焼w


本当はもっと長めのやつだったんですが、(こっからちゅーまでやってたw)
うまくいかなくて納得出来ずにぶち切ったばくしょ




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