バレンタイン前夜祭 






今年もやってきた。 




なぁ、今年は俺、チョコもらえんのかなぁ…… 
無理だろー、なんかもう義理でもいいからほしいよな… 






そんな会話が、男子の間で繰り広げられる。 
そうしてこれ見よがしに聞こえる会話に、女子は断じて聞こえないふりをするのだ。 
すべては当日の楽しみに、と。 




そうして、今年もやってきた。 





◇ 






「問題です、明日は何の日?」 
「……何だ、藪から棒に」 


にこやかな笑みを浮かべ意味深な質問をしてくる沖田に、斎藤が思いっきり顔を 
しかめてみせる。 
ここまでさわやかな笑みを浮かべているということは。 
いっそ、不気味なものにしか見えない。 



「……やだなぁ、一君。胡散臭いとか思ってるでしょ」 
「………」 



ははは、といつもには見られない寛容さで沖田が手を振る。 
その様子に斎藤はますます訝しげに視線をすがめた。 



「………何故、そこまで機嫌がいいんだ?」 
「は、明日が楽しみだからだよ。言わなくてもわかるでしょ」 



当たり前、とでも言いたげに首を小さく傾げて見せる沖田。 
それに自然と合わせる形で、斎藤も首をひねる。 



「………明日?」 
「うん」 
「………何かあるのか?」 
「うん?」 
「……心当たりがまったくないのだが」 




まさか。 




全く予想だにしていなかった斎藤の反応に、流石の沖田も若干固まる。 
斎藤の方はというと、沖田が固まって居ることすら気付かずに首をひねっている。 
二人の間に沈黙が流れ……破ったのは沖田だった。 



「あのさぁ………一君、今日何月何日?」 
「?……カレンダーを見ればいいだろう。自分で調べろ」 
「いやいや、そうじゃなくてね」 



どうやら沖田が本当に日付を知りたがっていると勘違いしたらしい、 
至極、真面目な様子で黒板の横のカレンダーを顎で差した。 



どうやら……この男は世相というものにかなり疎いらしい。 
……今に始まったことではないのだが。 




最初の機嫌の良さはどこへ行ったのやら、面倒くさそうに沖田がため息をつく。 



「一君……今日は2月13日だよ」 
「だから何だ」 



皆まで言わなくては、この斎藤という男には伝わらないらしい。 



「明日は2月14日です」 
「ああ。それぐらい知っている」 
「世間的に2月14日っていうと何の日か分かる?」 
「……なんだと?」 




そう言ったっきり、斎藤が顎に手をあてて黙り込む。 
しばらく悩んであるのだろう、顔を伏せたまま口を開かずに…… 



は、と顔を上げた。 



そして、眉を寄せ…… 



「やっと分かった?」 
「………バレンタインか」 
「何、ひょっとして忘れてたとか」 



沖田は嫌な予感がしつつも、斎藤に尋ねたのだが…… 
案の定、斎藤は何も言わずに顔をそらすばかりだ。 



「……それ、世の中の男が聞いたら泣いて悔しがるよ」 
「……あんたも人のことは言えんだろう」 




斎藤の的確とも言えるつっこみに、沖田はわずかに頬をゆるめるだけにとどまった。 



確かに。 
もともと“女子からのチョコ”というものに執着のない沖田からしてみれば、 
何故、男子がこぞって菓子を欲しがるのか、正直分からないのだ。 
同姓から見ても、綺麗であると素直に言える顔立ち。 

猫のように飄々としている性格も相まって、その格好を引き立てている。 




「……意外なんだが…」 
「ん?何が」 
「総司は女子からのチョコレートは欲しがらないと思っていた。」 



しかし、現に沖田は明日を楽しみだ、と言い、心待ちにしている。 
沖田もやはり、一人の男子、ということなのだろうか。 



そんな斎藤の短い逡巡を、沖田の笑い声が打ち切った。 




「まさか!別にクラスの女の子から貰ったって嬉しくないよ」 




それもどうかと思うが……。 
毎年、この季節になると総司が大量のチョコを抱えていたことを思い出す。 
その女子からの好意を、嬉しくない、と一蹴するのは……宜しくないだろう。 




「……そうなのか?では何故…」 
「千鶴ちゃんだよ」 
「…は?」 



何の前触れもなく沖田の口から出てきた人物に、斎藤が眉を寄せる。 



「僕が欲しいのは千鶴ちゃんからのだけ」 



そういう沖田の目は、どこか光っているように見える。 
おそらく、気のせいではないだろう。 







……“千鶴から” 







普段、剣道部のマネージャーとして精を尽くしてくれている。 
男しか居ない、あんな暑苦しい場所での仕事は決して楽では無いはずなのに、 
文句も言わずにいつも笑っている。 



常に千鶴には迷惑をかけていると言うのに…… 
この沖田という男はさらにその上を望むというのか。 




斎藤は苦虫を噛み潰したように顔を歪め…… 




「やめておけ。千鶴に迷惑がかかる」 
「……なんで?」 
「…すこしはあんたの相手をしている千鶴の気持ちにもなってみることだ。常日頃から迷惑を掛けているだろう」 
「……だから、僕は千鶴ちゃんからチョコをもらうな、ってこと?」 
「そういうことだ」 



うんうん、とやけに真剣に斎藤が頷いて見せる。 
斎藤も千鶴に迷惑をかけまいと真剣である。 




当然、納得いかないといった様子で沖田が目を細める。 
腕を組み、斎藤に沖田が、ず、と詰め寄った。 



「…僕、千鶴ちゃんに迷惑をかけてる覚えなんてないんだけどなぁ」 
「……嘘をつけ。千鶴にとってお前は負担の塊そのものだろう」 
「ひどい言われ用だね」 
「本当のことだ」 




ここまでいくと、普段は落ち着いた対応で沖田を戒めている斎藤も引かない。 
思わず、ばちばちと一発触発の空気が漂う。 


対峙する沖田も顔は笑っているが、機嫌を損ねたらしい、口を三日月型にゆるめた。 






◇ 

明日、明日。 

そうして今年もやってきた。 









Fin..... 


うわぁ、不完全燃焼w 
どうも時間が無いものでー 

でもね、やっぱりね! 
サイト的にたとえクリスマスはスルーしてもバレンタインはできんでしょう! 

というわけで書くよ!バレンタインss!(たぶんね 


あ、でも総受けじゃないですー^^ 
これの続きでもないです。 



さて、誰落ちにしようかなー



inserted by FC2 system