風邪の熱(一) 




その夜は頭が鉛のように重く、熱をもっていた。 



体の中心にあるはずの心臓に脈打つ音が驚くほど大きく聞こえる。 
もう何度も横になった自分の布団がひどく固くて居心地の悪いものに思えて 
寝返りをうつのでさえ億劫だ。 


ぐちゃぐちゃになっている遠い意識の中で聞き覚えのある声が響いた。 


   大丈夫か?効果は薄いだろうが少しは楽になるから飲め。 



そう聞こえたあと冷たい液体が口の中に流し込まれた。それを感じると同時に千鶴の 
意識は暗い闇の底へと沈んだ。 










「あれ?千鶴は?」 



朝。いつものように屯所が騒がしくなる時間帯。いつも通りの風景にいつも通りの 
紅一点の姿が無いことに気がついた。 




不思議に思って広間を見渡していると、背後からとても強く背中を叩かれた。 
あまりの強さに咳き込みながら振り向くと見慣れた筋肉質な男が立っていた。 



「平助!キョロキョロして何を探してるんだ?」 
「ゲホッ・・・・・!し、新八っつぁん、いきなり叩くなよ!」 
「ん?ああ、悪い悪い」 




まったく悪いと思っていない様子で新八が言った。 
広間に入ってきた新八も誰かを捜している様子でキョロキョロとあたりを見回した。 



「あ?千鶴ちゃんはいないのか?」 


案の定、同一人物を捜していたのだろう、先刻の平助と同じ事を言った。 



「なーんだ、新八っつぁんも知らないのかよ。役立たずじゃん」 
「平助、お前、朝から絞められたいらしいな」 



内心、千鶴の不在を残念に思いながら2人で話していると、話を聞いていたらしい 
固い硬質の声が響いた。 



「千鶴なら熱を出したから部屋で休ませている」 



気配無く近づいてきていた斎藤におどろきつつ、その発せられた言葉にさらに 
おどろいた。 



「え!千鶴、熱だしてんの!?」 
「ああ。」 
「千鶴ちゃんが・・・・・?・・・・・・な、なんで?」 




不思議そうに新八が訪ねた。 

それもそのはず、鬼である彼女が簡単に風邪なんてひくはずはないのだ。その彼女が 
体調不良で床に伏している。よっぽどのなにかがあったに違いない。 



新八の言葉を聞くなり、感情の読めない斎藤の瞳の奥に千鶴を想う色が透けて見えた。 



「・・・・・・・・・・・理由は分からない。昨晩突然高熱を出した。その場で 
強力なものではないが薬を飲ませてある。今日は無理だが、明日には回復するだろう。」 



淡々と事実を報告する斎藤に平助と新八が訝しげな視線を向けた。 



「・・・・・・・・・・・なんだ」 



まるで自分に向けられた視線の理由が分からない、といった表情の斎藤を見て 
2人は顔を見合わせた。 



…斎藤(一君)・・・・・・・・なんか・・・・・・ムカつく。 




熱を出した千鶴が『休んでいる』のではなく、斎藤が千鶴を『休ませている』。 
千鶴が薬を『飲んだ』のではなく、斎藤が千鶴に『飲ませた』。 



言い方に違いがあるだけで、すごくささいなことではあるが少し、いや、かなり 
気にくわない。 
平助と新八の顔が明白に歪んだ。 



「・・・・・・・一君が千鶴に薬を『飲ませた』の?」 
「・・・・・・・・・おいおい、まさか口移しとか抜かすんじゃないだろうな」 
「ち、違う!!」 



顔を歪めたまま、斎藤に言い寄る2人に斎藤はひどく慌てたようすで答えた。 
わずかに頬に赤みが差している。 



・・・・・・・・・・・・あやしい。 

「・・・・・・・・あやしいぜ、一君。だいたいなんで千鶴の看病を一君がしてんのさ」 

平助は面白くなさそうに問いつめた。 
なにもやましいことはない、と呟いてばつが悪そうに斎藤が答えた。 



「・・・・・寝付けなくて、屯所内を散歩していた。 
その途中に千鶴の部屋からうめき声が聞こえたから様子を見に行ったまでだ。」 
「・・・・・・散歩で千鶴の部屋の前を通るか、ふつう」 



黙っていた新八までもが納得していない様子だった。 
もちろん、平助もまだ納得していない。 




この後、続々と広間に集まってきた幹部達からも、斎藤への詮索がしつこく続いたのは 
言うまでもない。 



新選組の華が倒れたのは、彼女を知る幹部達の心に大きな影を落としていた。 




鬼である彼女が寝込むなど、かなりきついはずだ。大丈夫だろうか。 
それは日がすっかり落ちきった、その日の夜、身をもって彼らが知ることとなる。 






Fin.....



大丈夫なんでしょうかね、千鶴ちゃん。 
(身体的にではなく貞操的に)(ry 


なにしろ彼女を常に狙っている輩が5,6人・・・・・・ぐらいいらっしゃるものですからねうふふ 



幹部ごとに絡みを入れてあげる予定です。 

だからお願いですから幹部方、勝手に動かないでくださいねー 
特に沖田! 

彼はすぐ暴走するから困る・・・・・・・(´ω` )「・・・(お前のせい 


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