今宵、最上の月 







例えば、仕事が思うようにはかどらない時。




“鬼の副長”として恐れられながらも、その背負うもののあまりの重さに
不安になった時。

そんな気も知らずにあいつがほかの隊内の奴らと仲良さげに話していた時。

柄にもなく、ただ単に人肌が恋しくなった時。

内側から生まれる抗いがたい衝動に駆られそうになる。

あいつを―――……抱きたい、と。





その夜も始まりは突然だった。


仕事が一通り終わったので、休憩のつもりで窓を開けて夜風に当たっていた。
長い黒髪をさらさらと揺らしていく風がひどく心地よくて、何も考えずに
座っていたのだ。



いつも見ているはずの自室がとても遠いもののように見える。


まるで、今初めて足を踏み入れた場所のような。



夜空の中心で煌々と煌めく月のせいなのかもしれない。





土方の胸に満たされたような幸福に似たものと……
相反するはずの虚しさが沸き上がる。


月を見つめていると、自分がひどくちっぽけで、滑稽に思えて。






あぁ、この夜空に一人では耐えられない。

今は夜の静けさが逆に耳に響く。




「……すいぶんと…弱気になったもんだな」


土方が自分自身に苦笑を漏らす。

せめてもの強がりのつもりで呟いたが、はっきりと現れた虚しさが心から
消え去ることはない。



「……千鶴」


一人では耐えられない。でも、二人なら。

人肌が恋しくて、どうしようもない。





「……土方さん」


土方の呟きに答えるように、耳になじんだ、鈴を転がしたような声が聞こえた。

もしや、と思い、振り向くと、やはり。


「……どうした、眠れねぇのか」



もう既に月が輝き始めてから大分時間がたつ。
本来なら、寝床についているはずなのに。


白い寝間着を身につけた千鶴が、月の光に優しく照らされて映る。
同時に涙で潤んだような瞳を見つけた。



「……怖い夢でも見たのか」



眉を下げて、かすかに下唇を噛んでいる千鶴に問いかける。
千鶴へと向けられた言葉にからかいの色はない。


土方もまた、一人で居ることに心地良いような恐怖を覚えていたから。



「……土方さんも、ですか…?」




土方の問いかけには直接答えずに、暗に肯定する。
代わりに返ってきた問いが、縋るように震えていた。


千鶴も、この夜を一人では越えられないのだろう。





「一緒に……寝るか?」

涙をため込んだ潤む瞳で見つめられ、簡単に見捨てることが出来るほど
土方は強くはない。




ちょうど、土方も人肌が―――……千鶴が恋しくなっていたところ。



甘い行為へと誘うように、土方が千鶴に向けて手を伸ばす。


千鶴もまた、誘いを断ることが出来るほど、強くはない。






一人ではない頼もしさ、今からへの身が竦む恐怖、満たされることへの好奇心。
様々な感情が入り交じりながらも、おずおずと土方の手に応えた。












まるで、壊れ物を扱うかのように、千鶴を緩い動作で畳へ押し倒す。


昼間、日の下で見る少年ではなく、女としての本来の姿を取り戻した千鶴は
それに素直に従った。


抵抗する素振りを全くみせないことを良いことに、千鶴の薄く開いた唇にそっと
口付ける。


それは、激しく、けれども愛情に満ちており。


「んっ……はぁ、……」
「……千鶴…」




千鶴から、まるで夢でも見ているかのような声が漏れる。
咥内を何かを探し求めるかのようにまさぐってやると、千鶴が遠慮がちに
舌を絡めてくる。



差し出された舌を強く吸い上げ、それでもなお、咥内を蹂躙する。

動きに緩急をつけつつも、何度も角度を変え、貪る。

混じり合って甘くなった唾液が二人をつなぐ。
は、とため息ともつかぬ息をもらし、ようやく土方が唇を離した。


「……土方さん」
「……なんだ?」


息がまだ整っていないのであろう、苦しげに土方を呼ぶ千鶴の声に自分でも
信じられないほど甘く答える。

しかし、甘い声を耳にした途端、千鶴の目から、ついに大粒の涙が
あふれ、頬を伝う。

何も言わず、けれど眉を下げて、静かに泣く千鶴を土方が手を止め、
じっと見つめる。


「……どうしたんだ?」
「……夢を、見たんです」


――――……狂ったように咲き乱れ、異常なまでに散り去っていく桜。

桜吹雪とも言えるような光景の仲に自分が一人で立ちつくしており。

初めての風景にどうしていいかわからず、狼狽していると。

耳に心地よい聞き慣れた声が響いて、声の主の存在に安心する。

しかし、どこにいるのかと探そうとしても、聞こえるのは声のみで。

ひたすらに呼ばれる自分の名前に不気味な物を覚え、思わず

愛しい声の主の名を叫んだのだけれど。

答えは、やはり。

『千鶴………千鶴、…千鶴………千鶴』



「ひ、じ、かたさんがどこかに、行っちゃうみたいで……っ」

なるほど、それであんな青ざめた顔をしてやがったのか。


しゃっくりをあげ、自分の下で泣きじゃくる少女の額に軽く口付ける。


「……俺は、どこにも行きやしねぇよ」



頭を優しく撫でるように千鶴を押さえていた手に滴が伝う。
わずかに熱をもったそれを丁寧に舌ですくう。


「……だから……ほら、泣き止め」


泣いている千鶴にそう諭すのが忍びないのか、気まずそうに土方が唸る。


夜に自室にこもる土方は、その場しのぎでしか髪を結っておらず、肩に流されている
髪が月の光にきらきらと反応する。



絡まりやもつれの一切無い美しい黒髪を土方ががしがしと掻いて、言葉を探しているような素振りを見せる。


ややあって、なかなか泣きやもうとしない千鶴の唇を塞いだ。



「むぅ……んっ」
「………泣かれるとやりにくいだろうが。……それとも俺に抱かれるのが泣くほど嫌か」




唇が離れて土方を見ると、その眼にわずかながら悲しそうな色が浮かんでいて、
慌てて答える。


「そ、そんなことはない、です…!」



千鶴の返答が土方なりに嬉しかったのだろうか、ほんの少しだけ口角をあげて不敵な
笑みを浮かべる。


白い衣をまとった千鶴の襟元を土方の手が漂ったかと思うと、その手が
着物の合わせ目から忍び込んでくる。



土方の長くてしなやかな指に肌をまさぐられると、どうしようもなく幸せが込み上げてきて正直に
気持ちいい、と思ってしまう。

夢見心地で口から漏れたため息を土方は見逃さなかった。


「……もう感じてるのか」
「…ち、ちがっ…!」




恥ずかしさから必死に言い訳をしようとするが、言葉を発する前に身体をほとばしるように流れた衝動に詰まってしまう。



土方のもう一方の手が秘部をくすぐるように添えられている。
着物越しとはいえ、すでに濡れそぼっている所に触れられては、期待していることが
ばれてしまう。


「……やっ……待って…!」



土方の手を止めようと腕にすがるが、既に獣のように眼を光らせている土方を止める
力など持っているはずがない。



千鶴の静止も聞かず、衣越しの入り口に中指を押しつけてわずかに埋める。

溢れんばかりにため込まれている愛液で、あてがっていた衣の色がはっきりと濃くなる。
その暗闇でも分かる染みを見て、土方がへぇ、と眼を丸くする。


「…すごいな、もうこんなに濡れてんのか」
「…やぁ…!み…ないで…」


羞恥心から身が焼けてしまいそうになる。
昼間とまったく変わらない土方さんの声が、さらに恥ずかしさに拍車をかけていく。



眼の前の土方さんは余裕があり、乱れているのは私だけのように見えてひどく
いたたまれない気持ちになってしまう。





しかし、そんな千鶴の思いとは反対に、いまも止めどなくとろとろと流れ出る愛欲から
土方は眼を離してくれない。



土方に望んでいることを見られている。


そのことが死んでしまいそうになるほど恥ずかしく、また、沸き上がるような快感を
身体の内から感じたのも確か。



「…脱がすぞ」



土方が小さく耳元で囁くと、千鶴の返事も待たずに腰ひもに手をかける。
抵抗する間も与えず、素早く着物をはぎ取る。



下に佇んでいたのは、眼を奪われるような白。千鶴の着ていた白衣にも負けぬ、白い肌。
あまりにも清廉な様子に、土方の喉が鳴る。




あとはもう、自分自身でも自制が効かなかった。




未だ恥を捨て切れていない千鶴の首元に顔を埋める。




強く強く吸い上げれば、千鶴の堪え忍ぶ声と共に赤い花弁が肌に咲き誇った。
まるで、千鶴に自分を刻み込んでいるようで、心地よい独占欲の波に呑まれそうになる。


いくつも跡を散らしていき、それが胸の辺りまで出来た頃。

いままで千鶴の細い身体を支えることしかしていなかった土方の手が急に
動きを変えて、脇腹の辺りを撫でる。



「ふぁ……あっ…」


なだらかな、明らかに女のそれと分かる身体の線をなぞる指に、千鶴の声が漏れる。



くすぐったいような、焦れったいような……その指が最終的に行き着いて、
弄ばれることを期待してしまっている。


「……やぁ…っ、はずかしい、ですっ……んっ!」



部屋に響く音に耳を塞いだ千鶴の身体が、急に感じた湿った物の感触に大きく跳ね上がる。



土方が千鶴の股に顔を埋め、内太股を舐めあげている、という事に気づくまでそう時間は
かからなかった。



丁寧に、余すところがないように舐められ、足を本能的に閉じようとするが、
膝を押さえつけられているので体勢が変わることはない。



じわじわと花芯へ、土方の舌が上り詰めてきている。


「……やだっ…!ひ、じ、かた、さんっ」
「……言ってることと身体の反応が大分ちがうみてぇだな」




尚も止めようとしない土方の頭を出来るだけ遠ざけようとぐいぐいと押し返すが、

そんな両手でさえ、土方の片手に捕まれて容易く拘束されてしまう。




土方の舌が上へ上へと上昇を続けて、




ついに、ちろり、と熱い炎を感じた。






「ひぁ、んっ…!」
「……ここが好きなんだろ?」




乾いたような甲高い嬌声をあげる千鶴に、土方が意地悪そうに微笑む。

千鶴の最も弱い箇所をしつこく舌で攻めあぐねていく。



舌で秘部をつつくように舐めれば舐めるほど、千鶴の奥から愛液が止めどなく
溢れてくる。
それを取り零さずに口へと含んだまま、尚も千鶴を犯していく。




「土方、さんっ……もう、むりっ、」




荒い息で呼吸を繰り返す千鶴から限界の声が上がる。
その声を聞いて、攻め上げる手段を舌から指先へと切り替える。




たっぷりと潤っていることは既に分かっているそこへ、ゆっくりと中指を沈める。
いつもなら堅く、侵入を拒む千鶴の入り口も今はすんなりと土方の指を受け入れた。



「ふ……うっ……んっ」
「……千鶴、まだ入るか?」
「……わかっ、りませ、んっ」




既に快感の波に流されそうになっている千鶴の顔には、快楽の表情しか浮かんでいない。


一本、もう一本、と徐々に指の数を増やしていく。
中で指を折り曲げ、薄い膜をこすってやると千鶴から甘い声が漏れる。


「あ、あぁっ………んうっ!あっ…!」
「……千鶴」


夢の中の乱れ桜のように身体を震わせ、よじる千鶴に
土方自身も我慢が出来なくなっていく。



入っていた四本の指をすばやく抜き去り、手際よく己の腰紐を解く。



わずかに響く衣擦れの音がやけに大きく聞こえて、もどかしい。




熱く誇張して猛っていた自身を待つ千鶴へとゆっくり宛う。

粘着質の水音が滑るように聞こえて、いとも簡単に土方と千鶴が繋がる。



「土……方 さんっ、……!はやくっ…」
「……そう急かすんじゃねぇよっ…」



はやく、土方が欲しい。


そう懇願してくる千鶴が堪らなく愛しい。
幸せな感情に包まれながらも、土方の声には既に余裕の色はない。




最後まで千鶴の中に土方のものを納めると、一息つく間も与えずに
腰の連動を始める。



「あぁっ……っん!あっ! 土方さぁっ」

こすれる内膜と土方の欲望の摩擦に千鶴が嬌声を上げる。




不安なのか、意識が飛ばないように、と土方の首に千鶴が腕を絡めてくる。


最初は緩慢に動いていた動作も徐々に速くなっていく。



「あっ!……ゃあん、 ひ、じかた、さんっ……ひじか、た」
「、可愛いぜ、…千鶴っ」




壊れてしまった人形のようにただただ、土方を呼ぶ千鶴の腕の力が強まる。


同時に土方の背中に爪を突き立てられるが、それさえも甘い痺れとなって
身体を駆ける。


挿れて、抜いて………再び挿れて……
その動作を何度も繰り返し。




「だめっ……ひ、じ…ほし、い」
「……わかって、る、っ」




土方が大きく勢いをつけ、千鶴の最も深い所をするどく貫いた。





、


「ぁっ――……」
「……っう、む、りだっ」



千鶴が大きく目を見開いて、腰を弓なりに反らす。

その瞬間、千鶴の中が急に狭くなり、引き締まる。



自制できない射精感を覚えていた土方は、ためらうことなく全てを吐きだした。













果てた後にいつも襲ってくる、この倦怠感。

事を終えた途端に理性を取り戻し、冴えてきた頭で、「手加減出来なかったな…」と
悔いる。それもいつものこと。


千鶴の入り口からどくどくと収まりきれずに、太股を伝う白濁液をそっと拭ってやる。


「………大丈夫か、千鶴」


そういって土方が気遣うと、焦点のやや定まっていない瞳で、千鶴が弱々しくも微笑む。


「ねむい、です…」
「……寝ていいぞ、そのまま」



土方も千鶴の隣へと身体を倒し、千鶴を優しく抱き寄せる。
力強くも、まるで壊れ物を慎重に扱うような手つきには愛情が溢れている。




千鶴も素直に眠ろうと思ったのだろう、土方に緩くすり寄ってきた。

腕の中に感じるぬくもりに思わず笑みがこぼれてしまう。




一人で越えられない夜もある。




しかし、二人なら。





夢と同じようにお前を置いていったりしねぇよ。
だから……  お前も、俺のそばにいてくれねぇか。



こんな夜もあるのだから。













Fin.....








やっとの思いでUP出来ました^^;;

なんだか時間がかかったこの裏。なんでだろ。やりきった感が^^




にしても裏は書くのに気力を使いますねw


土方さんはふだん千鶴をどろどろに甘やかしてるんだ!(唐突
可愛くてしょうがないから!

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