狙うは、彼女 






「甘いですよね」



どこか含み笑いをするように声がかけられる。
何を内包しているかつかめないこの声は。



「………何のことだ、総司」
「嫌だなぁ、土方さん。本当は何のことかわかってる癖に」




廊下をこちらに向かって歩きながら、沖田が戯けて肩を竦めてみせる。
そんな沖田の仕草に土方が苦虫を噛み潰したような顔をする。



沖田が何のことを言っているのか、だいだい見当がついている分、何も言い返せない。


詰まったように黙り込む土方を見、沖田がますます笑みを深める。



「さっき見ちゃったんですよね。……千鶴ちゃんが縁側で居眠りしてたの」



その傍らで土方が千鶴を覗き込んでいた、というところまであえて
口にしないところがいやらしい。


あえてその話を避けるのも負けたような気がして癪だ。




「お前も、いたのか」
「たまたま見かけただけですよ」



ようするに見られていたのか。
よりにもよって、一番厄介な奴に監視されていたのだ。
土方がばつが悪そうに小さく舌打ちし、



「………あんなとこで居眠りなんかしてると風邪引くだろうが」
「だから、羽織をかけてあげたって言いたいんですか?」




………全部見てんじゃねぇか。
わかってんなら聞くんじゃねぇよ。





「土方さんは本当に千鶴ちゃんに甘いですよね」
「………んな訳あるか」
「あれ、自覚ないんですか?」




本当に?とわずかに沖田が目を見開く。
今まで流すように土方をみていたその目が、土方を凝視する。


そんな様子を見て、土方が至極不快そうに眉を寄せた。




「………お前は俺をなんだと思ってんだ。……だいたい、お前の方が千鶴に
甘いんじゃねぇのか」
「……僕が?僕だったら羽織なんてかけてあげませんよ」



そう言いながら、表面的に顔に貼り付けていた笑みが不敵に光る。

何かを楽しんで居る時は、必ずと言っても良いほど沖田の顔にこの表情が浮かぶ。
大きな猫のように見える男の昔からの癖だ。



「……確かにな」




確かに、沖田ならばそのまま千鶴を寝かせたりなどせずに、無理矢理起こすだろう。
風邪を引くからよくないよ、とか人の良さそうな笑顔で言いながら追いかけ回すのでは
なかろうか。


こいつが一つの物に執着するのはかなり珍しく、なかなか見られたものではない。
いつものらり、くらりと……掴みどころがない。
昔からの付き合いである俺でさえ、そう思う。



……つい、沖田の分かりづらい恋心を一心に受ける少女に同情してしまう。





そんなものに巻き込まれる、こちらの身にもなって欲しいものだ。
毎日のように屯所内をどたどたと騒がしく駆け回られては集中できない。

さらに、困り切った少女の悲鳴ともつかぬ声が聞こえてしまうと、
仕事などが手につくはずもない。



「……だけどな、いつまでもそうやってひねくれてると、他の奴に持ってかれるぞ」



口元を意図的に緩め、挑戦的に沖田を見やる。
そんな視線など気にもならない、とでも言うように沖田も土方を見据える。


ばちばちと、男二人の間で火花が粉を散らす不思議な光景。




「まさか。僕が捕り逃す訳ないじゃないですか」

何が、と主語を言わずに話を進める事が出来る以上、沖田も土方が
誰のことを言っているのか理解しているのだろう。


それも尚、強気な発言を返すと言うことは土方への先制布告という意味に他ならない。






「……俺も女を逃がしたことはねぇんだがな」





お前が本気で、というのなら俺も譲る気はさらさらねぇよ。
受けて、立とうじゃねぇか。














Fin.....





管理人は千鶴が大好きです←

ようは土方さんも沖田さんも千鶴が好きって事(´ω°))))←


この組み合わせのVS好きすぎる





おまけ↓







「おじさんは黙っててくれます?」
「うるせぇよ。まだ餓鬼のお前にいわれたくねぇな」
「なんですか、それ。僻んでるんですか?」
「……誰がだ」
「そうやってすぐ怒るから千鶴ちゃんに嫌われるんですよ」
「なっ……!」
「言ってましたよ?すぐ怒るから嫌いだって」




嘘だけど。







沖田さんは嘘つきです。笑



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