お菓子か悪戯か 






十月も終わりかけになると、昼間で天気が良くとも肌寒い。

本日、非番であった沖田は一人、自室で身体を休めていた。
特に何をしようというわけでもなく、ただ大人しく昼寝をしていたのだ。



ふと、襖のわずかに空いた隙間から冷たい風が吹き込んでいることに気づき、
閉じようと襖に手を伸ばす。




「・・・・千鶴ちゃん?」




たまたま、襖の間からちらりと見えた見慣れた少女の姿に疑問が漏れる。

肌をくすぐる寒空の下、
色合いの綺麗な袴を着た少女が縁側に座っている。




・・・・・・・・なにしてるんだろう。
ここからでは小さな背中しか見えないので、一人で何をしているかは分からない。



何やら回りを落ち着かない様子で見回して・・
・・・・・・・こそこそと周りをうかがっているように見えなくもない。



「・・・・・・・・隠し事でもしてるつもりなのかな」





もしそうならば。
先ほどまで部屋で丸くなっていた沖田が、楽しそうに笑みを浮かべた。











もうすぐ十月も終わってしまう。
寂しいような嬉しいような。


十一月が来てしまうと今年もすぐに終わってしまいそうで、心配になる。



相変わらず、父様の行方捜しは硬直状態で進む気配が一向に感じられない。
募るのは心配と不安ばかりで。



あの優しい父様。
私の頭を優しく撫でてくれた大きく、暖かい手が忘れられない。



どうか無事でいてほしい。


そして、私に向かって優しく微笑んでほしい。






・・・・・・・・寂しいな



思わず口から漏れそうになる不安を飲み込む。




いけない。
一番苦しいのは私じゃない。




父様の安否が確認できない今、一番苦い思いをしているのは新選組の皆さんのはず。


そして、何もできない私と違い、実際に捜索を続けて居てくれてるのはほかでもない、
近藤さんを始めとする新選組の皆さん。






私が生意気に不安な様子を見せていてはいけない。
せめても、明るくしていなくてはならない。



心の中の迷いを振り払うようにふるふると首を振る。




膝の上に乗せている、白い紙に包まれた赤い小さなものに視線を落とす。
それをくれた人の満面の笑顔が頭に思い浮かび、
思わず頬が緩んでしまう。






「・・・・・・・・・・早く食べないと見つかっちゃう」

「何が見つかっちゃうの?」
「ひゃっ?!」




いつの間にかすぐ後ろまで近寄っていた声の主に、大きく心臓が跳ねる。


彼らが新選組である以上、しょうがないことなのかもしれないが、
気配を消して近づかれてはこちらの心臓が保たない。



まだ鼓動の早い胸を押さえつつ、ゆっくりと振り向く。





「・・・・・・沖田さん」


目に入ってきたにこにこと微笑む顔は優しげで、思わずどき、としてしまう。
しかし、実際に千鶴が感じたのは甘い感情ではなく、嫌な予感。



沖田がここまでさわやかな笑みを浮かべている。
絶対に何かを企んでいる。
そう思えてならない。




「一人で何をしてるの?」
「えっと・・・・・」





昔から隠し事をするのが苦手な私は何を言って良いか分からず、ふらふらと
視線を泳がせる。

その仕草に沖田さんの笑みが一層深まる。




「僕に隠し事なんてしちゃだめだよ。ここで何してたの?」




確かに沖田さんの言うとおり。
諦めるように小さくため息をついて、




「・・・・・・・近藤さんから頂いた飴を食べようと・・・・・」
「わざわざ寒い縁側で?」




そう言われ、改めて考えると確かに少し肌寒い。
この空気の温度に気づかないほど、私は深く考え込んでいたことに驚く。




「・・・・・・・確かに・・・・寒いです」
「・・・・・・今気づいたみたいな言い方だね?」




沖田の確認のような問いにこくこくと首を縦に振る。




「・・・・・ほんとに自分のことには鈍いよね」



わずかに呆れたような表情を浮かべ、千鶴の隣に座り込む。




「・・・・・・・寒いんじゃないんですか?」
「何、僕がいちゃいけない?」




そんなことはないです、と言葉を切る。
ただ、私がいま持っている飴のお菓子は一つだけ。



先程、私だけが食べるのは皆さんに申し訳ない、と近藤さんに言うと、
「何、気にせず食べていいんだぞ」と笑って頭をかき混ぜられた。

それならば、この飴も私が食べていいものなのかもしれない。






そんな私の葛藤に気づいたのか、沖田が膝の上のお菓子をのぞき込む。



「千鶴ちゃん、食べちゃっていいよそれ」
「・・・・・・いいんですか?」








だって、千鶴ちゃんがもらったんじゃない。












甘い物好きである千鶴がお菓子を食べたがって居ることは明らかだから。
それを譲ると、いいんですか?、と聞き返された。




こちらを気遣うように小首を傾げる姿は何とも可愛らしい。
大きな瞳に喜びの色が浮かんでいて、子犬みたいだ。



「いいよ」




再度大きく頷いてやると、ふわ、と千鶴が微笑みを返す。

千鶴ちゃんが赤い飴を幸せそうに口に運ぶ姿を見ていると、
こっちまで幸せな気分になってくる。







だから、つい、魔が差したんだ。







すっかり油断している千鶴の太股に沖田がすっと手を伸ばす。
その行為に千鶴が大きくむせ返り、沖田から距離を取ろうと大きく退いた。





「・・・・・・な、なっ何するんですか・・!」
「いいじゃない、お菓子あげたんだから」





そう言いながらも沖田の手は千鶴の太股から離れようとせず、それどころか
怪しく千鶴を撫で回し始める。






「なっ・・・!理由になって、ないです!」
「じゃあお菓子、くれない?」






我ながら無茶なことを言っていると思う。
だって、既にあの飴のお菓子は千鶴の口の中に収まってしまっているのだから。




最初、訳が分からない、とでも言いたげに沖田を見つめていた
千鶴の耳がだんだんと赤く染まっていき、大きく目が見開かれる。





「っ、む、無理です!」
「へぇ、千鶴ちゃんにしては察しがいいね」




人懐っこいような笑顔を崩すことなく、沖田が千鶴に顔を寄せていく。
しかし、茹で蛸のように真っ赤になってしまった千鶴が、迫る沖田をぐいぐいと
押し返す。



面白くない、とでも言いたげに沖田が不機嫌そうに眉を寄せる。




「・・・・・・お菓子くれないの?」
「あ、当たり前です!」





差し上げられる訳がないでしょう!と千鶴が睨みながら声を張り上げるが、
沖田としては全く怖くないどころか、逆に愛らしい。





「そんな可愛い顔されると苛めたくなる」
「っ、なんでですかっ!」






だから、その反応が可愛いんだって。







なんとか逃れようとする千鶴の動きを腕で封じ込め、




「僕にお菓子もくれない悪い子にはお仕置きしないといけないね」
「お、お仕置きって・・・!」
「言うじゃない、好きな子ほど悪戯したくなるって」
「そっ、そんなの・・・・・お、沖田さ、・・・・待っ」


「お菓子くれなきゃ、悪戯するよ?」









その後、沖田がお菓子と悪戯のどちらを選んだかは、当の二人しか知らない。








そういえば、十一月はもうそこまで迫っている。











Fin.....



沖田さんにべたべたしてほしかっただけです^^
笑

だいたいこの時代にはハロウィンなんてものはないだろうから、
現代パロにするかどうかえらい悩みましたw


結局この形に落ち着いて。



良かったね、沖田さん←




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