少女のはず 























「千鶴、それどうしたんだ?」 
「え?」 




土方に用があり、職員室の前で待っていると。 
親しげに呼ばれた声に多少驚いて振り向くと、原田が背後に立っていた。 

こんにちは、原田先生、と返そうとするが 
何やら原田がジェスチャーを送ってくるので言葉を飲み込んでしまう。 


長い指で、右の目元をとんとん、と叩いている。 
どういう意味なのだろう。 



「……原田先生?どういう…」 
「右頬だよ、千鶴の」 
「右頬?」 



何のことか分からないが、言われたとおりに右頬に指先を滑らせた。 
すると、すこし暖かく、ぬれたような感覚。 


痛みはないが、どうやら怪我をしているらしい。 
いつのまに。まったく心当たりがない。 



「大丈夫か?なんでそんなとこ怪我してんだ?」 



千鶴の目線に合わせようと、原田が屈んで顔を覗き込む。 
本人曰く、染めたわけではないらしい綺麗な赤髪がさらり、と揺れる。 
どうかすると、ホストです、と言われても頷いてしまいそうな端正な顔を間近で 
見てしまうのは、心臓に悪い。 



「……わ、わからないです」 



踊るように跳ねた心臓を制服の上から手で押さえつけて返事をする。 

かすかに赤く染まった顔を見せまいと、わずかに原田から退く。 
そんな千鶴の反応をどういう意味だととったのか、原田が困ったような笑みを 
浮かべた。 




「避けるなよ……なぁ、こっち向けって」 





そう言われ、長くしなやかな指で顎が掬われる。 
顔を見られたくなくて距離をとったのに、そんなもの原田にとっては取るに足らない 
ことでしかなかったようだ。 




原田はというと、空いているもう片方の手で何やらYシャツのポケットを探り、 



「お、あったあった。絆創膏貼ってやるから……って、千鶴?」 




顎を掬ったまま、原田が千鶴の顔を訝しげに凝視する。 
原田からすると、何気ない行為なのかもしれない。 
しかし、千鶴にとっては恥ずかしいこと極まりない行為であって。 





………なんというか、顔が近い。近すぎる。 
まるで、このまま口付けでもされてしまいそうなほど。 




「………顔、赤いぜ」 
「…!」 




顔に熱が集まっていくのは自分自身でも分かる。 
しかし、原田から改めて口に出して指摘されるとひどく恥ずかしい。 




もともと隠し事が出来ない気性の千鶴と人の気配に聡い原田ではあるのだが。 




目をどこか睨むような上目遣いで、口を引き結ぶ千鶴の様子に 
思い当たることがあったのか、原田の顔が徐々に緩んでいく。 
原田が時折、見せる意地悪そうな顔。 





「……ひょっとして、照れてんのか?」 
「…ぅ……ち、ちが」 
「お前、真っ赤だぜ」 





言い訳はできねぇだろ。 
そう言われたような気がした。 

目の前の原田はどこか楽しそうに口元を緩ませており、千鶴を解放してくれそうな 
気配はない。 





身が焼けそうな羞恥心から、堅く目を瞑った。 




















すると、原田の動きがぴた、と止まる。 
あとから、ごくり、と言う息を呑む音。 
















「?……原田先生?」 




どうしたのだろう、と千鶴がそっと目を開く。 




「……まだまだ…」 
「え?」 
「……なんでもねぇ」 





どこか自嘲するような笑みを浮かべ、今度は原田が千鶴から目を反らす。 




がたいのいい体つきとは裏腹に、器用に絆創膏の包装を剥ぎ、 
千鶴の目元に貼り付けた。 


もう、千鶴の怪我の血は止まってしまって居るのだが、そんなことは構うほど 
千鶴に余裕はない。 



「あ、ありがとうございます!」 
「気にすんな。女が顔に傷を作るのはよろしくねぇからな」 
「……き、気をつけます」 
「そうしてくれ。……じゃねぇと俺が落ち着かねぇ」 
「?……はい」 



原田の言葉の意味がつかめず、千鶴が小首を傾げる。 
大きな目をぱちぱちと瞬いているその姿はなんというか……愛らしい。 



「……独り言だ」 





我ながら頭の悪い言い訳だと思う。 
が、素直な千鶴はなんとか納得した風情で頷いてくれた。 












「……くそ」 




あのあと、取り込み中だった土方の手が空き、千鶴は職員室へと入っていった。 

千鶴がいなくなった廊下で、原田が吐き捨てるように呟く。 
口元を大きな手で覆い、視線を足下へと流しながら 




「……まだまだ、子供だと思っていたんだけどな」 




らしくない。 





堅く目を瞑ったあの時の千鶴がどうしても“少女”に見えなくて。 




“女”にしか見えなかったなんて。 








Fin..... 


なんかもうすいません。 
これいま激しいスランプにはまりこんでます。ええそりゃもう。 

なので、なんだこの変な文!と思っても何も言わないであげてください。 

いつもと変わらないじゃないか、と思ったかたは正解です。 
この駄文がいつもの富士なのです← 




なんか妙にネガティブ^^; 

あ、管理人は元気ですからね! 
訪問して下さる方々になんだかすごく富士の身体をいたわってくれる方が多いのです。 
ありがとうございます^^! 

次は、リクエストをいただいたちー様&千鶴かなぁ^^ 




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