戦いのなかへ 






「ここを……出てったらどうなるんだろうな」



隣に寝そべる新八が呟く。
口調はあくまで明るいが、苦い響きが隠しきれていない。
いままで苦楽を共にし、新八のそばにいた原田からしてみれば、手に取るように
新八が言わんとせんことが分かる。



「……さぁな」



なんとなくその質問には答えたくなくて、そっけなく返した。
新八もそのことを分かっているらしく、小さく視線を動かすに止める。



赤く夕日を映す空を雲が走り抜けていく。速い。
真っ白な絹のような雲が音も立てずに走っていく。



江戸を出て、剣で身を立てようと無我夢中だった。
誰も彼もが、武士になろうと必死だった。

この武力の行き交う狂乱の時代、どこの藩にも属すことを許されず、百姓あがりの浪人が
いかに辛いか。
刀を差しているとはいえど、所詮は百姓。
半ばやけになって出てきた京でも、しばらくその心持ちはぬぐえなかった。

本当の意味で、新八にはこの気持ちもわからないのだろう。




「………もう、限界かもしれねぇ」




そう言って、新八がへへ、と微笑んだ。
その自嘲的な笑みに、思わず目を反らしてしまう。
新八はその天真爛漫な性格と、ただ剣技のために京へと下ってきた。
純粋に人と刃を交えるのが好きなのだ。

そんな新八にとって、今の状況は何よりも許せないものであるはず。



「近藤さんは……どこにいっちまうつもりなのかね」
「………さぁ、な」



父のように、そして兄のように慕ってきた近藤に思いを馳せる。
初めて試衛館で剣を交えた時、この男には勝てない、と感服させられたのだ。
たかが田舎の芋道場。
こんな場所に、こんなに芯の強い男がいるものか、と。



小手先ではない、武士としての強さを近藤はもっている。
だからこそ、志をはっきりと違えかけている今、歯がゆくて仕方がない。



「なぁ、左之」
「なんだ」



新八がむく、と上体を起こす。視線が合う。



「……お前…は、どうすんだ」



わずかにどもりながら、新八が尋ねる。
新八はもう、腹をくくっているのだろう。
静かに青い炎をともすような目を見れば、分かる。
この男、熱くたぎる男のようで、誰よりも冷静である。



「………俺は」



………どうするのだろう。
続けようとした言葉が見つからない。
ふと、喉がからからにこびりついていることに気がついた。

頭の端に浮かぶのは、ある少女の姿。
鈴の音のような声で原田を呼ぶ彼女のことが気がかりでならない。



「……辛ぇなぁ」



原田自身、浮かんだ目尻の熱にどうしていいかわからず、頬をゆるめた。
頭上の雲はすっかり形を変えていた。












永倉、原田両名が新選組と袂を分かったのは、この後二日後のことである。







Fin.....


たまにはシリアス。
ふじは幕末マニアですのでこんな雰囲気もかなり好きです。

薄桜鬼の乙ゲーノリも好きだけどな!



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