散りゆく桜 



のんさまからのリクエストの作品です^^!
遅くなり申し訳ないです…… 







綺麗だ。
桜はとても。




あの、最後まで志を貫こうと戦った新選組はどうなったのだろう。
彼らの後を追おうと必死に姿を捜した。



しかし、再び巡り会うことは叶わなかった。


いつのまにか彼らとの生活が当たり前になっていた私にとって、いままでがいかに
夢のような幸せだったかということを思い知らされた。


突然、心のほとんどが抜け落ちてしまったようで、実感が沸かなかった。


こうして桜を見ると。まるで彼らが成り代わったように思えて。


ひらひらと咲き乱れては散っていくその姿に、無意識に目尻が熱くなる。




新選組との記憶が未だに思い出に成りきれない。




「千鶴」


どれほどの時間桜を見つめていたのだろうか、いつのまにか辺りは暖かい夕日に
包まれていた。


名前を呼ばれ、聞き慣れたその声に振り向く。


「……千景さん」




鬼の里へと身を寄せて、もうしばらくたつ。


最初は不慣れなことも多く色々と大変だったが、その都度、千景が手助けしてくれた。

かつてはあんなにも彼を拒んでいたのに。




するどくも優しく向けられる眼差しを心地よいと感じたのはいつからだったんだろう。
その瞳に心を奪われたのは、いつだったんだろう。
いつの間にか。


彼は私のそばに居てくれた。





「……どうした」




じっと見つめて目を離さない千鶴に、千景が眉をひそめた。


言葉はどこか突き放すようだが、声音から決してそうではないことが窺える。





尋ねても何も言わない千鶴に、わずかに笑みを浮かべながら近づく。
縁側に座り込んでいる千鶴の隣に腰を下ろし、すっと桜を見つめる。




「………綺麗、だと思うか」
「…はい」




目線から、目の前の桜の話をしているのだ、と分かる。



どこか穏やかな表情を浮かべている千景も、もしかしたら桜に彼らを見てくれて
いるのかもしれない。



桜は、音も無く、散っていく。




やがて、胸に込み上げる感情に耐えきれずに、千鶴がこてん、と千景に寄りかかった。

普段自分からすり寄ったり甘えたりすることのない千鶴の突然の行動に
千景が思わず目を見開く。



しかし、すぐにその目は愛おしげに細められ、

「……どういう風の吹き回しだ?」
「……意地悪なこと言わないで下さい…」




わざと確認のように囁かれた言葉に、千鶴が頬を膨らませる。

自分のしていることが今更のように気恥ずかしくなり、ふふ、と思わず微笑みを漏らすと、
長く角張った指が顎に添えられ、顔を上げられる。





目の前に愛しい人が現れる。

夕暮れの日の光に端正な顔が照らされて、まつげの影が肌におちている。

さらさらと揺れる前髪の隙間からのぞく、瞳は不思議な光をたたえており。

どこまでも深くを見通しているようなその瞳に吸い寄せられそうで。






思わず見とれていると、千鶴の動かない視線に千景も気がつく。

いつもなら見つめ合うことを極端に恥ずかしがって、すぐに目を反らす千鶴の
いつもとは違う態度に頬を緩ませる。





「……なんだ、口付けでもしてほしいのか」




ゆったりと千景に言われ、千鶴がはっ、と目を見開く。
どうやら本当に見惚れていたらしい。




「そ、そんなつもりじゃ……!」



熱くなっていく頬を両手で押さえ、千景から遠ざかろうと身を引いた。
しかし、千景が千鶴に迫るので、二人の間の距離は変わらない。




「……そうなのか?誘っているようにしか見えんな」
「ち、千景さ…!」
「おい、暴れるな……俺からの口付けが気に食わんのか」




顔を真っ赤に染め、暴れる千鶴に千景が眉をひそめる。


その、いつになく不機嫌そうな表情を見て、千鶴がぴた、と抵抗を止めた。
目を見開き明らかにしまった、という顔をする。




「……いい加減慣れろ」
「………む、無理です…」




確かに千景の言うとおりである。
口付けを交わそうとするたびに赤面して夫を拒む妻というのはいかがなものか。




それは頭のなかでは十分に分かっているのだが………



如何せん、身体は千景から逃げようとしてしまう。
決して、千景との口付けが嫌なわけではないのだが。





どう言っていいものか、千鶴が口ごもる。
千景に射抜くような視線を向けられ、余計に焦って言葉がでない。




「……あ、の」
「………もう、いい」




すいません、と千鶴が謝辞を続ける前に千景が大きくため息をついた。
諦めたような、ぞんざいなため息。




鋭くも優しく細められていた目が、千鶴からはずされる。

その千景の仕草が心にぐさり、と刺さるように、堪らなく痛かった。




「わ、私、そんなつもりじゃ……」
「ならば、何故、俺から退こうとする?」




貴方が嫌なわけではないんです。
ただ、恥ずかしいだけで…





そう口にしようとすると千景に鋭く見据えられ、何も言うことができない。





違うんです。
貴方を拒むつもりはまったくなくて。






喉に言葉が張り付いて、ぱくぱくと口が動くだけで肝心な言葉が出てこない。




本当は、貴方からの口付けも嬉しくて。だから――……





「私、を、嫌いにならないで、下さい……」





やっと出てきたものは、弱々しく情けないもの。





結局、いつまでも行為に慣れきれない私が悪いのだ。
千景さんが快く思わないのも仕方がない。





どんどん悪い方向に考えが沈みそうになった時、ふと頭に何かが乗せられた。





あたたかく、大きくて、優しい手のひら。
驚いて今まで伏せていた顔を上げると、千景が気まずそうに目をそらす。
逆に千鶴は千景を凝視してしまう。


すると、小さく舌打ちするのが聞こえ――……




「……悪かった」
「え?」
「……ただ、なんとなく苛めてやりたくなっただけだ。……だから、泣くな」




言われて初めて気づく。
いつの間にか、頬には熱い滴が伝っていた。



今度こそ抵抗させずに、千景が千鶴を抱き寄せる。
小柄な千鶴は腕の中にすっぽりと収まってしまう。


耳元で、ゆっくりと安定した千景の息づかいが聞こえる




「……だが、お前が俺の口付けをそこまで拒むのは、気に食わん。
 ………お前が嫌だというのなら無理強いはしない」
「………。」
「……触れられるのは、嫌、か?」




そんな質問、答えなど聞かずとも分かっているのに。


貴方からの甘い甘い口付けなら、


「嫌……なんかじゃ、ないです」





そう呟くと、腕の戒めが急に強められる。
何も言えずにいると、唇に暖かく湿った物が押し当てられた。

優しく、本当に優しく、舐めるような口付け。




そんなものを与えられては、何も考えられなくなってしまう。
甘い痺れが身体を駆けめぐり、貴方しか見えなくなる。


もっと、もっと、貴方が欲しくなる。







「………最初から素直に触れて欲しいと言えば良い物を」



手のかかる妻だ、と千景が満足そうに微笑んだ。






あぁ、桜が美しい。








Fin.....


さて、「口付け」と何回出てきたでしょうか?笑

いや、書きすぎたなって思ったんです^^それだけ


あと、千景さんは千鶴ちゃん大好きです。
愛情の裏返しってやつですよね。ていうかつんでれなんだよ←


リクエストを下さったのんさま、遅くなってしまい、すいませんでした。;;
愛想を尽かして見てくれてないやも……しれませんが、
ごらんになって頂けましたらどうか……!!!


のんさまのみ、お持ち帰り可です^^

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