遠い世界の話 








「げほっ、げほ……」


喉から無理矢理ひねり出したような咳が部屋に響く。
時々むせかえるような吐き気を覚え、どうにも気分が悪い。


慌てて口元を押さえた手の平を、じわ、と覗き込む。

目に入ってきたのは、見慣れた肌色。


……良かった。


禍々しい赤色を吐きだしていなかったことに安堵する。







医学の心得などありはしないが、これは重い病気の症状ではないだろうか。
他の幹部たちにはまだ何も伝えていないが、僕を部屋から出してくれないあたり、
土方さんは勘づいているのだろう。


……僕が病気を患っていることに。




人間である以上、いつかは死んでしまう。それが他人より多少早まるだけだろう。
今すぐにこの世を去ると言うわけではない。



少し前に比べ、やつれたようにも見える己の手のひらを見つめる。



それでも、幾多の人間を切り伏せてきた者の死が、たかだか病だと思うと
どうしようもなく虚しさが込み上げてきた。




まだ身体が自由に動く今のうちに、したいことをしておかなければならない。

いつか、動けなくなる前に。







そう思うと、部屋でじっとなんかしていられなくなってしまった。














「お、沖田さん?」

縁側に一人佇む沖田をみて、千鶴が声を上げる。


「どうしたんですか?部屋にいないと土方さんに怒られてしまいますよ」
「……千鶴ちゃん」



心配そうに洗濯物を抱え込んだまま、沖田を覗き込もうとする千鶴に向き直る。
千鶴の大きな黒い瞳が静かに澄んでいる。


ほんとうに、綺麗だな、と思う。




自分にはない、光に惹かれる。



何だか見ていられない気持ちになり、何気なく視線を反らす。
静かに闇に呑まれかけている僕にとって、君は眩しすぎる。


そんな心情など、おくびにも出さず沖田は微笑む。


「……ねぇ、僕がいなくなっちゃったらどうする?」
「沖田さん?どこかに遠出されるのですか?」



純粋な千鶴は沖田の暗に含む比喩など気づく様子もない。




返事を待つようににこにこと微笑んだまま、千鶴を見つめる。
なんと言って良い物かわからないのだろう、千鶴も考え込む素振りを見せる。







……普段、苛めてばっかりだから、僕がどこかにいってしまえば
千鶴ちゃんは喜ぶんじゃないかな。


彼女の喜ぶ顔を見るのは、本当に好きだけれど、あんまり喜んで欲しくない、正直。


返ってくる答えは分かり切っているのに、何で聞いたんだろう。


あぁ、聞かなきゃ良かった。












「……寂しい、です」
「…は?」
「……沖田さんが居なくなるのは…すごく寂しいです」





予想していた答えとは全く正反対の答えに思わず聞き返してしまう。



僕、君に好かれるようなこと、した覚えないんだけど。






「……あ、そんなに苛められるのが好きなの?」
「ち、違います!……ただ」
「ただ?」




赤くなって伏せてしまった千鶴に優しく聞き返す。

いけない。君の言葉を期待してしまっている。





千鶴の切った言葉の続きを待っている沖田の顔を、千鶴が意を決した様子で見上げる。
ぱくぱくと口を動かすが、声にならない千鶴に小さく首を傾げて見せた。

やがて。



「……沖田さんの、そばに居たいです」



…真っ赤になった顔で、そんなこと言わないで。


まるで、君も僕のことを好きで居てくれてるように聞こえてしまう。




たとえ、君がそんなつもりで言った訳ではないとしても、そんなことを言われたら
僕は都合の良いように解釈するよ。





黒くたおやかに揺れる髪に触れる。
何も言わずにそのまま指で弄んでいると、不思議そうに千鶴が沖田を見上げた。




「あ、あの…」
「……愛しい、ってこういう気持ちのことだよね」






あぁ、やっぱり。君と生きていたい。



君が望んでくれるなら、まだまだ倒れるわけにはいかないな。







END.....





死、死ネタじゃないですってば!笑
だって結局死んでないし!
ていうか、富士の設定ではこの時全然沖田さん元気だぜ!

実際死んでしまうのもだいぶあとのはずだし!




て全力で言い訳してみました。オイ
苦手なかたいらっしゃったらすいません……

あとおまけ↓



「ところで、どこに行かれるんですか?」
「……やーめた」
「え?」
「千鶴ちゃんは僕が居ないと寂しくて泣いちゃうんでしょ?その時誰が慰めるのさ」
「な、泣くとまでは言ってないです!」
「……怒らないでよ、本当のことでしょ」
「……なっ…!」







どうだ、ハッピーエンドだろう!(何を言うw

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