ようこそ!薄桜学園☆(一) 







薄く色づいた桜がはらりはらり、と舞い散る春。
まだ半袖で外を出歩くには肌寒く、上着を着足すには少し暑い。



微妙な春の境目の日、早朝、ひどく焦った様子で走る男女の姿があった。

彼らが目指す場所、それはとびきり桜が美しく、ふさわしい、薄桜学園。
全国優勝、日本一という称号を誇り高く持つ剣道の強豪校である。





「やばっ!あと1分しかねぇ!」
「へ、平助くん、走りながらパンを食べるのは危ないよ」
「そんなこと言ってらんねーじゃん!」




薄桜学園指定の美しい青色―――、浅葱色のブレザーの下に濃い黄色のパーカを
着ている、男子にしては小柄で、目の大きな短髪の少年が平助くんと呼ばれて
返事を返す。



猛ダッシュする彼の後ろに連れられている少女は、心配そうに眉を寄せている。

セミロングの柔らかそうな黒髪は顔の横でまとめられており、優しそうな
少女の雰囲気によく似合っている。


二人が必死に走ったところで、薄桜学園の授業開始時刻は待ってなどくれない。




「・・・・・・・やばい、このままじゃ遅刻する!・・・朝補って何の授業だっけ」
「確か、古文で土方先生だよ」
「・・・・・・マジで?」




薄桜学園屈指の鬼教師の名を聞いて、平助があからさまに青ざめる。
彼の授業に遅れでもしたら、どうなるかわかったものではない。



「千鶴!もっと走れるか?」
「が、がんばってついていく!」
「んじゃ、走るぞ!」



と、平助がさらに加速しようと前屈みになりかけたとき。
ぐん、とすごい力で手を後ろに引っ張られ、思わず転びそうになる。


「何するんだよ、ちづ―――」



ばっ、と後ろを振り向くと、そこにあったのは平助と同じく驚いている少女の顔と
感情の読めない、いつものニコニコ顔。



「お早う、平助」
「げっ!総司!」



いきなり現れた笑顔の男に平助が思いっきり顔を歪める。
急いでいるというのに思わぬ障害物に捕まってしまうとは、今日はついてない。

はたしてついてないのは千鶴か、それとも俺か。




どちらにしろ、この男と登校中に出会ってしまうということは、遅刻を宣告されたも
同然なのである。


男の登場にちからいっぱい嫌そうな顔をしている平助を無視して、
隣に立っている千鶴に向き直り、話しかける。




「おはよ、千鶴ちゃん」
「お、おはようございます、沖田先輩」



千鶴が沖田にいきなり話しかけられて、わずかにおののく。

沖田から遠ざかるように一歩、距離をとろうと交代するが、沖田がわざとのように
千鶴に二歩分近づく。
本当はこんなところで沖田にかまって、油を売っている場合ではない。

しかし、平助に対する『お早う』と千鶴に対する『おはよ』の声と態度が
あまりにも違いすぎて、平助には面白くない。




「・・・・・総司、顔が近い」




千鶴との距離を詰め、顔をのぞき込みいまにも口付けでもしそうな沖田に
鋭く言い放つ。
そんな平助にちらりと視線を移し、沖田が裏のありそうな笑みを見せる。




「いいじゃない、別に。そんなこと平助に言われる筋合いないよ」
「なっ・・・・!千鶴が困ってるだろ!やめろよなっ、そういうこと!」
「・・・・・・平助には言われたくないな。・・・・・・・・さっきから気になって
しょうがなかったんだけど、それ・・・どういうつもり?」




沖田が微笑みを崩さぬまま、指さす。



その方向をたどると先ほどから結ばれていた、平助と千鶴の手があった。
手をつないでいる、というより、千鶴の手を平助が握りしめて引っ張っていると
言った方が近い気もするが。



小さな子供の頃から一緒にいて、育った2人にとっては何気ない事なので
千鶴からしてみれば、特に珍しいことではない。



平助も同じように思ったのか、反論しようと平助が口を開いた途端、
沖田が千鶴と繋がっている方の平助の手首を凄まじい力でひねり上げる。

容赦されていないことは、周りから見ても一目瞭然だ。





「いてててっっ!!何すんだよ!総司!」
「幼なじみだからって、何でもしていい訳じゃないんだよ?不愉快だから、
 やめてくれる?」




有無を言わせないどす黒い笑顔を顔に浮かべながら沖田が言う。

長身である沖田が平助の腕を上にひねり上げるから、手をつないだままの千鶴も
自然と前につんのめりそうになる。
痛みのあまり、涙目の平助も何故か千鶴の手を離そうとしない。





沖田と平助、両者一歩も引かず、学校に遅刻しそうな事を忘れて、
その場を動こうとせず。
声をかけようにもかけられない千鶴はあわあわと焦っているばかり。







すると、遠くで授業の開始を告げる聞き慣れたチャイムが聞こえた。


その音に平助がはっ、と我に返る。

「はっ?!やばいって!!総司、はなせよ!」





おそらく、たどり着いた教室では鬼が待ちかまえているのではないか。
その叱りの対象に、平助だけではなく千鶴も含まれてしまう。





「お、沖田先輩、急がないと!」



千鶴が心配そうに沖田を見上げ、服の端をぎゅっ、とつかむ。
沖田は千鶴の顔を見、かすかに頬を染めて、嬉しそうな笑みに顔を塗り替える。




「そうだね、千鶴ちゃんを遅刻させる訳にはいかないし」
「何だよ、俺は遅刻してもいいのかよ!」
「平助はどうでもいいよ」



ようやく解放された平助が痛む手首を振りながら、反論する。
が、沖田にばっさりと切り捨てられる。





そうして二人は必死に、もう一人は特に急いだ様子もなく、薄桜学園を目指した。









Fin.....


もう遅刻してるんですけどね(笑)

なんだか書いてて平助がまるで沖田大好きすぎて千鶴に嫉妬してるみたいな
かんじになってしまっt(ry


そういう感じでも読めます(嘘こけw

あ、まだまだつづきます−−




☆次回予告☆


たどり着いた我らが薄桜学園。
正門で待ちかまえるのは『風紀』のきらめく腕章。

さて、平助と千鶴の命は?!(笑)




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