ようこそ!薄桜学園☆(二) 







「残念ながら、遅刻だな」




ようやくたどり着いた薄桜学園の正門の前で、いつも通りに2人の男が待ちかまえていた。





左腕に付けられている『風紀』の腕章。
この学園の風紀委員であることを示すそれが、今は目に痛い。




「……いいじゃんっ!どうせちょっと遅れただけだろ?」



チャイムが鳴り終わる前に校門をくぐれば、遅刻扱いにはならない。
しかし、遅刻であることを静かに告げた男は手にあるボードに何やら書き込みながら
口を開く。




「たとえ、わずかな遅れであっても遅刻は遅刻だ。文句があるならもっと早く登校しろ」




冷たく言い放たれるその言葉に反論しようにも、正論なので何も言い返せない。
言葉がでない平助がうぐ、と口を閉ざし、唸った。




なんとしても遅刻を帳消しにしたい平助とは対照的に、隣に立っている沖田は
学校の規定通りの登校時間など、気にも止めていない様子だ。
実際、彼にとっては遅刻などどうでも良いことなのだろう。


しかし、遅刻する、と言うことを快く思っていないのは千鶴も平助と同じだ。
ただ、目の前の無表情の男が言うことも道理。
たとえ少しであっても遅刻であることには変わりはない。



「平助くん……斎藤先輩の言うとおり、しょうがないよ」




悲しげに千鶴が目を細めて言う。
自分たちの否を認める千鶴は正しく、平等だ。



そんな千鶴の態度に斎藤が眩しそうに目を細める。
かすかに、表情の浮かばないはずの顔が朱に染まっている。


「千鶴………」


正直に遅刻を反省して萎れる千鶴に感動したのか、斎藤の背後にきらきらとした
空気が見える。



二人の間に流れる良い雰囲気をわざと断ち切るかのように、今まで黙っていた
もう一人の腕章が前に進み出る。



「俺のかわいい妹に、そんな顔させられないなぁ……」


人を労っているようで、見下していることが分かる言い方をしながら、元気なく
顔を伏せる千鶴を千鶴そっくりの顔がのぞき込む。


「薫……」


千鶴よりだいぶ早く家を出ている双子の兄の顔を見つめて、千鶴が呟く。
薫が平助に握られていない方の千鶴の手をそっと握る。



「本当は俺が千鶴を連れてこれれば良いんだけどね……憎たらしいことに風紀委員の
仕事があってね。さすがに千鶴に付き合わせる訳にはいかないだろ?」




そう言って微笑みながら、薫が手を添えた千鶴の小さな手に顔をよせ、指先に口付ける。




「ちょっ……薫っ」
「……顔が赤いよ…?可愛いね」



本来ならば胡散臭く見えるその行為も、薫がするとなぜかとても優雅に映る。
肉親である妹相手にするには過剰すぎるスキンシップも、千鶴は慣れてしまっているので
今更何も思わない。


しかし………人前でされるのは少し恥ずかしい。




「ちょっと。朝から千鶴ちゃんにべたべたしないでくれる?」


一人興味なさそうに会話に参加していなかった沖田が、これ見よがしに
薫を千鶴から引きはがす。



沖田に力づくで引きはがされ、薫がわずかに後ろによろめく。
しかし、薫は余裕の笑みを浮かべたまま、顔を崩さない。


それどころか沖田に蔑むような嘲笑を向け、


「……何?沖田……俺が千鶴に触るのがそんなに気にくわない?」



薫がわざと挑発するように、からかうような口調で投げかける。

しかし、言葉を受ける沖田も余裕の表情で答える。



「うん、そうだよ。見てて苛々するからやめてほしいんだけど」
「………ひょっとして、嫉妬してるの…?………見苦しいね」



二人とも笑顔で向き合っているというのに、ただならぬ殺伐とした空気が張りつめる。




このふたりはなぜこうも仲が悪いのか。

千鶴はそう思ってため息をつくばかりで、まさか、原因が自分にあることになんて
気づくはずもない。




薫から遠ざけるようにして、さりげなく沖田に抱きしめられていた千鶴が
おどおどと口を挟む。


「あ、あの……もう教室にいかないと……」



授業が終わってしまいます、と自信なさげに呟く。



「………確かにその通りだ。……平助、千鶴、急げ」




静かにことの成り行きを見守っていた斎藤が千鶴と平助を交互に見やる。
正論を唱える斎藤に、待ってました!と言わんばかりに平助が大きく頷く。
よほど土方のことが恐ろしいらしい。


正門の前でにこにこと睨み合って居る二人の間から、千鶴をひったくって駆け出す。



「きゃっ?!」
「逃げるぞ、千鶴!」



あ、と呆気にとられている沖田と薫が気になるのか、ちらちらと正門を
振り返り、千鶴はなかなか本気で走ろうとしない。



しかし、急がなければならないのは千鶴も同じなので、結局平助に従った。



再び手を結んで走り出す平助と千鶴に、背後から二人の不服そうな声がかかるが、
既に遠く離れてしまっているのでなんと言っているかは聞き取れない。








あぁ、放課後の部活動が怖くてしょうがない。

けど、まぁ。
千鶴の事で怒られるならいっか。





手をつないで居る少女のことに少なからず優越感を感じた平助の頬がわずかに緩んだ。











息を切らしながら自分たちの教室にたどり着いた、平助と千鶴を待ちかまえていたのは、
「よくも俺の授業をさぼりやがったな、良い度胸じゃねぇか……」とでも言いたげに
仁王立ちする鬼の姿だった。













Fin.....






朝っぱらから千鶴ちゃん好きすぎるお二方^^w

いや、四人かw



みんなで笑いながら修羅場展開するといいよw
そのすきに千鶴はまた誰かから狙われる←




……ほら、まだ出てきていない教師陣とかいるじゃないですかw



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