ようこそ!薄桜学園☆(五) 



どうやら生徒会室は他の教室とは、扱いから別格のようだ。
豪勢な細工の施されたドアを前にし、なんとなくそう思った。



ドア一つにしても、生徒達が和やかに過ごす教室のソレに比べ、上品な引き戸になって
おり、色も金がかっているのがすぐに分かる。



まるで、誰かのためにしつらえた自室のような。
なんでこんな部屋がこんな所にあるのだろう。



「失礼しまーす……」


控えめにノックを二回し、おずおずと平助がドアを開ける。


覗き込んだ部屋の中は暗く、様子がうかがえない。
誰もいないのだろうか。



どちらにしろ、この手の中の大荷物を何とかしなければならない。
この荷物を生徒会室に送り届けなければ、再び土方の怒号をくらうだけなのだ。





……そのへんに置いとけばいっか。





なんとなく心苦しいが、誰もいないのではしょうがないというものだろう。

そう思い、未知の生徒会室に足を踏み入れた時。





「………誰だ」



部屋に響いた低く重い声に、思わず動きが止まる。

声の主を捜すべく辺りを見回すと、やはり学園に不釣り合いな大きく豪華なソファー
から、人がむっくりと起きあがった。




「……土方さんから生徒会室に持ってけって言われたんだけどさ」




勝手に部屋に入ったことに引け目を感じているのか、平助が若干、申し訳なさそうに
手元の荷物を顎で差す。

暗闇の中で立ち上がった人物が、ちらりと平助の荷物を一瞥し、




「要らん」



一言、そう言い切ると再びソファーに横になろうとする。




「……は?」




言われたことが理解出来ずに平助が硬直する。


ようやく言葉の意味を理解した時には、会話の相手であったはずの人物は、
目を閉じて眠りにつこうとしていた。


平助が焦ってソファーの前方に回り込み、




「ちょっ……!要らないってどういう事だよっ」



受け取ってもらえないのは、こちらとしてもとても困る。



声を張り上げる平助に、人物が心底面倒くさそうに薄く目を開く。




「………なんだ、貴様は。さっさと出て行け」
「…なっ!」
「俺の眠りを邪魔するな」




次々と浴びせられる罵倒に、さすがの平助の顔にも怒りの色が浮き出る。
わざわざ届けにきてやったのに!と言い返そうと口を開く。



その時。


「ど、どうしたの、平助くん?」



不安そうなか細い声が、部屋の入り口から覗く。
きょろきょろと部屋の中を見渡し……平助と目が合った。




そうだ。千鶴なら俺の見方をしてくれるはず。



「なぁ、千鶴もなんとか言ってくれよ!」
「…………千鶴……だと?」



平助の千鶴を呼ぶ声に反応したのは、千鶴本人では無く目の前の偉そうな男。


呼ばれて、いきなりの指名に驚きながらも部屋に入ってくる千鶴を男は確認すると
わずかに目を見開く。
そして、今までの気だるそうな動作を嘘かと疑うほど、素早く立ち上がった。






平助より、頭二つ分ほど高い背。
茶のような金にも見える髪の隙間から覗く、鋭い二つの瞳。
端正な顔の口元が三日月型に緩む。それがひどく不気味に映える。



そして何よりも目を引く―――……まばゆいばかりの白い学生服。
明らかに学園指定の制服ではない、学ランは不思議なほど男に馴染んでいた。





「あ、の……?」



初めて目にする生徒会室で見知らぬ男に見据えられ、千鶴がたじろく。



しかし、そんな千鶴の仕草を気にとめる様子もなく、
男は千鶴に容赦なく近寄った。

顔には薄い笑みのようなものが、相変わらず浮かんでいる。




「………そういうことか」
「…はい?」
「生徒会室に届けものとは、この女のことだな?」







……………は?



この男は何を言っているのか。
驚きのあまり、開いた口がふさがらない。
それは千鶴も同じ事のようで、言葉を探せずに口をぱくぱくと動かす。




しかし、男の行動で平助の思考は現実に引き戻された。






「……きゃっ!」
「捜していたんだぞ」




貼り付けたような笑みを崩さぬまま、男が千鶴の細い腰を引き寄せた。
いきなりのことに千鶴も持っていた書類をバサバサと床に取り落としてしまう。



そのまま抱きしめられる千鶴はそれどころではないようで、男から必死に
逃れようとしている。

しかし、一向に男が千鶴を離す気配は見られない。



「……細いな。まともに食べているのか?」
「は、離してください……!あなたっ…誰ですかっ」




未だに状況が読み込めずに、慌てふためく千鶴を改めて、男が直視する。



「……ふん、俺に名前を尋ねるなど、礼儀も知らぬようだな。……まぁ、いい。
 お前になら教えてやろう。………風間、千景だ」




風間千景。  どこかで聞いたことがあるような。





その名前の人物を思い立ったのは平助の方が先だったらしい。
今まで以上に大きく目を見開く。



「お前………生徒会長かっ!?」
「……まわりの人間どもはそう呼ぶな」



どうでもいい、と言いたげに平助の剣幕には目もくれずに答える。



「お前!千鶴を離せよっ!」



男の腕のなかに閉じこめられている千鶴は、苦しそうにもがいている。
確かに、見知らぬ男にいきなり抱きしめられても不快なだけだろう。



………俺だって抱きしめたことないのにっ!





こうなると手段を選んでなんかいられない、と風間に掴みかかる。

いままで千鶴のみを見つめていた風間の目が、平助に向けられると
驚いているような、心底不思議そうな目で平助を一瞥し、




「……なぜ、離さなければならない?……いずれ、妻となる女を」









………………。






「は?」「え?」






風間の発言に、部屋の空気が一瞬で止まった。
驚きに目を見開いて居ないのは、当人の風間のみ。





「な、な、何言ってんだよっ!?」



ややあって、平助が大声で反論した。
わずかに声が震えているのは動揺しているからだろう。

千鶴も顔を青ざめさせて、そんなはずはない、とふるふる首を振っている。



ありえない、とでも言いたげな二人の様子に
風間が苛立ったふうもなく目を細めた。



「……まぁ、いい。これから俺との愛をはぐくめば良いことなのだからな」
「私、そんなの…」
「照れなくても良い。可愛らしい顔をしてくれるな」





………話を聞いてくれてない。







男性にこれほどまでに密着されることに慣れていない千鶴が顔を朱に染め、
視線を平助に送り、助けを求める。


千鶴の困り果てている視線に気づき、平助が更に風間に掴みかかろうとした時。






「彼女を離しなさいっ!風間!」



轟くような凛とした声が生徒会室に響いた。



大きく開かれた入り口によって、先程より目が利くようになり
声の主を直視する事が出来る。

生徒会室の入り口から鋭い視線を風間に向け、仁王立ちしているのは。




千鶴の最も仲の良く、信頼出来る親友だった。






「お、お千ちゃんっ」
「大丈夫?………じゃ無いわね、千鶴ちゃん」




千鶴を視界にとらえ、しかめられていた端正な顔が優しく緩められる。



あぁ……お千ちゃんが女神に見える……






千鶴が頼りになる親友の登場に心の底から安心していると。



千がなんのためらいも無く、つかつかと風間に近づく。
じろり、と風間を仰ぎ見ると、手を振り上げて―――………




瞬間、生徒会長の手が打たれて激しく鳴った。






「なっ……貴様、何をするっ!」
「行くよっ!千鶴ちゃん、藤堂くんっ!」




風間の腕の戒めが弱まったのを見計らって、千が千鶴を強く引き寄せた。

そのまま、まるで鬼から逃げるかのように三人とも勢いよく
廊下に転がり出た。





「――…おいっ!」





室内から苛立った声が聞こえるが、振り向いてはいけない。
千に逃げるように諭され、三人はひたすらに廊下を走り抜けた。







Fin.....










というわけで、なんと当サイト初登場です、ちー様^^

彼は難しいような気がしてて避けてたんですよね……(斎藤さんも←)



あ、なんで千姫が千鶴の危機に気づいたかっていうと、
見かけたんです、たまたま。




あ、藤堂くんと千鶴ちゃんだ
あんな大荷物もってどこいくのかしら

あれ?向こうには生徒会室ぐらいしかないわよ
なんでそんなところに…まさかねいやわからんぞもしかしたらいや大丈夫だろけどもしも
あんな風間がいるような場所に千鶴ちゃんがいくんだとしたらまずいわとめないとでも
藤堂くんもいっしょだしいやあんなやつたよりにならんわ私がいくしかない!



嘘です。こんな子じゃないです



あと補足ですが、千姫と風間は腐れ縁の幼なじみですじつは。


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