ようこそ!薄桜学園☆(六) 






「なぁ……土方さ」




何となく、世話話でもしようと隣の席の土方に話しかけた。



……のだが。



どういうわけか、土方の目が据わっている。
恐ろしく何かを睨み付けるように一点を見つめており、自分が話しかけられたことさえ
気付いていないようだ。

声と共に肩に置こうと伸ばした手を引っ込める。





………今、話しかけたら殺されるな。




うんうん、と頷きながら自分に言い聞かせる。
再び土方から離れようと静かに背を向けるが……




「……左之助」





地を這うような低く、重い声がかけられた。




………しまった、気付かれた。





背中を冷たい冷たい変な汗が伝う。
ゆっくりとぎこちなく土方を振り向くと。





やはり、というか機嫌が最高に悪そうな土方がこちらを見ている。
……いや、睨んでいる。



「……睨むなよ……何があったんだ、土方さん」



苦笑しながら一応、土方に不機嫌の理由を聞いてみる。
だいたいの予想はついているのだが。




「………総司」




…やっぱりな。




苛立ちの原因であろうことが、はっきりと予想できていた名前の登場に思わず
顔が引きつる。



途端、土方が堰を切ったように声を荒げる。



「今日という今日は我慢ならねぇ!毎回、毎回ッ!俺のテストだけ赤点とりやがって…!」





怒りに震える土方の手に握りしめられているのは、『沖田総司』と嫌みの如く
大きく書かれたテスト用紙。




…というか、名前しか書かれてないように見えるのはきっと、俺の目の錯覚だと
信じたい。


総司の土方に対する嫌がらせの数々に、土方が逆行するのはいつものことなのだが……
鬼のように怒り狂う土方を、なだめる原田の気持ちを少しは理解してほしい。




「……総司もよくやるよな…」



毎度毎度、テストがあるたびに土方のテストだけ、赤点。
しかも、ほかの教科はほぼ満点。

土方への当てつけなのは、誰の目にも明らかだ。



「……同情するぜ」





薄く苦笑いをしながら相づちを打つ。


その時、ただならぬ土方の剣幕を察したのか、鮮やかな緑色のジャージを
着込んだ体つきの良い男が話しに割り込んできた。




「なんだなんだ?どうしたんだ、土方さん?」
「………。」




もう、総司について話す気も無いらしく。
ち、と小さく舌打ちし……永倉を見据える。


その辺りの常人なら、簡単に射殺せそうな視線で睨み付けている。




さすがの永倉も冗談ではない土方の様子に、慌てふためく。




「な、なんだ……そう睨むなよ…」
「……新八…」




速くも身の危険を感じた永倉が逃げようと身を翻すが……
少しばかり遅かったようだ。

すばやく動いた土方から襟首を掴まれる。

「ぐぇっ!首が絞まる…」
「……なぁ、新八」




永倉を呼ぶ土方の声はひどく優しい物で。
しかし………何故か……冷や汗が止まらない。




「……総司はなんであんなに俺にたてつくんだろうな?」
「…さ、さぁ…?」
「俺は何もしてねぇよな?」
「お、おう」
「俺は悪くねぇよな?」
「…そうなんじゃねぇか…?」





目を完全に反らしながらも、永倉が答える。
永倉の視線が助けてくれ、と原田に向けられるが、当の原田はというとわざと
土方を視覚に入れないようにしている。




親友でもある原田に見捨てられ、永倉の行く末は決まったも同然だ。




突然、土方の腕に力が込められる。
そうなると、自然に永倉の体勢が更にきついものになってしまう。




「……永倉、総司をここに呼んでこい」
「……はい」




最早頼み事、と言うより命令になっているのだが、今の土方にはとてもじゃないが
逆らえない。




ぱ、と解放された永倉は己の任を果たすため、職員室を全速力で飛び出した。




後に職員室に残されたのは、いまだに鋭い目をしている土方と……取り残された、
ともいえる原田。


当然、土方の視線は原田へと向けられる。
ごくん、と原田が息を呑んだ。




再び鬼の如く怒鳴るか……と思ったが、土方はどさ、と椅子に腰を下ろした。
そして大きくため息をつき……




「……あいつには本当に手を焼かされる……」
「……まぁ、総司を叱るのも楽じゃねぇよなぁ」




その点に関しては、原田も土方にとても同情する。




沖田の嫌がらせは土方のみへのものだが、それを何度も叱咤する土方は苦労人だ。
そんな面があるところ、土方は根が優しいのだろう。



……本人に直接言うと、顔を嫌そうに歪めるのは目に見えてるから言わないが。




「…にしてもなぁ……今の様子じゃ、新八がちと可哀相だぜ。
……ついさっきまで千鶴と話して機嫌良かったじゃねぇか」
「……うるせぇよ」



低く、唸るばかりだった土方の声が、わずかに穏やかな色を帯びる。







雪村千鶴。
土方のクラスの女子生徒であり、剣道部のマネージャーでもある。
性格はとても穏やかで、真面目。
誰とでも分け隔て無く接することができ、特に目立つ生徒ではないが、
男女ともに信頼を寄せられているようだ。
マネージャーの仕事も決して手を抜くようなことはせず、全身全霊で部員に
尽くしている所を日々目にする。




常に総司のことや、それでなくとも様々なことで頭を悩ませている土方は、
そんな千鶴を快く思っているようで。





「……千鶴は良い子だよなぁ」




原田が頬を緩めてそう呟くと、土方もわずかではあるが、微笑んだ。




「………そうだな」
「気もきくし、何より優しい。千鶴は絶対、将来いい女になるぜ」
「かもな」





いままで殺伐としていた職員室の空気が、和やかな物へと変わる。
それもあの、可憐な少女の力だろうか。





「剣道部のやつらもしつこく千鶴にちょっかいかけてるみたいだしな」






傍目にも分かるほど、剣道部の部員達は千鶴を気にしている。




もともと幼なじみだという平助をはじめ、周囲に己の想いを隠そうとさえしない
沖田、そして朴念仁であるはずの、部長である斎藤。





今はまだ、子供だから何とも言えないが……。


あと少し、年月さえ経てば、原田自身も分かったものではない。
それは、土方も同じなのではないだろうか?





千鶴の兄は、家系の複雑な紆余曲折があり、妹に対して過剰な執着があると聞く。


詳しくは知らないが、何やらこの学園の生徒会長までもが千鶴に興味を
示しているようで。









千鶴の何がそんなに周囲を惹きつけるのだろうか。

わからない………が。





「千鶴は大変そうだな」
「…ああ」




原田と土方は頷きあった。













一方は、一生懸命に奔放し。
一方は、我が道を我関せずで突き進み。
一方は、生真面目に己を律し。
一方は、優しく余裕に見守り。
一方は、誰より厳しく全てを統率し。






彼らが目指す場所、それはとびきり桜が美しく、ふさわしい、薄桜学園。





ようこそ、薄桜学園へ。








Fin.....






とりあえず終わり^^笑

第一章、て感じなんですけどね!
番外編というか、完全にオリジナルが最初から書きたかったんですけど、
とりあえず公式をもじっとこうかな、的な。



さー次からガンガン書くぞ!



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