雪の国 





足下が地面に埋まってしまうほど、降り積もった雪の上を歩いていく。
雪を踏みしめるとさくさくと音がして心地良い。


斗南の冬は言うまでもなく、寒く、辛いものだ。
実際に昨夜に降ったはずの雪は日が沈んでも解けることなく居座っている。

夕闇の中で見つめる雪は、白く光っているように見え……




ひょっとしたら、俺は雪が好きなのかもしれない。
わざわざこんな凍える場所に所帯を持つなど。








「……あ、一さんっ!」
考え事をしながら歩いて行き、聞こえてきた声にはっと顔を上げる。


どれほど集中していたのだろう、いつの間にか自宅にたどり着いていたことに
気がつかなかった。





「おかえりなさいっ……!」



満面の笑みで彼女が雪の上を駆けてくる。その光景に思わず頬を緩ませてしまう。



こんなに降り積もった雪の上を走っては、足を取られないだろうか。
千鶴のことだ、気を抜いては転んでしま……





「……大丈夫か、千鶴」
「………」




案の定、転んで雪に埋もれる千鶴を抱き起こす。

心配になるほど華奢で軽い身体は一に抱えられ、いとも簡単に雪の中から
救出される。




「……ごめんなさい」


恥ずかしいのか、情けないのか……複雑な表情で千鶴が顔を伏せる。
よく見れば、頬と鼻の先が赤い。
しばらくの間、外に居た証拠だ。



「……いつから外にいたんだ?風邪を引くから家の中に居ろといっただろう」
「………ごめんなさい」




眉をひそめてそう言うと、ますます千鶴が身体を縮こませる。



「別に怒っている訳ではない……ただ、心配なだけだ」




千鶴の着物のすそについている白い雪を払いながら、取り繕うようにそう言うと。
心なしか、千鶴の顔が少しだけ上がったように見えた。



………いや、実際には顔を上げたのではなく、視線のみをこちらに向けていた。
甘えるような上目遣いで。





……可愛い。





「でも……一さんが帰ってくるのを待ってたんです……一人じゃ寂しいから…」





…………かなり、可愛い。





思わず緩みかける頬を頬を引き締め、千鶴から目を反らしながら





「それでも、だ。お前に風邪を引かれては困る」
「私なら大丈夫ですっ!………っくしゅん」
「………そうは見えないのだが」




一が仕方ない、とため息をつく。
小さくくしゃみをした千鶴の両手を手のひらで包み込む。
やはり、細く小さな指の先が氷を掴んだように冷たい。



本当に……どれほどの間、俺を外で待っていてくれたのか。




「………一さん?」




強く力が込められ、身体に回された腕に千鶴が驚く。
いつもならば、屋外で抱きしめられる事を恥ずかしがって、極端に嫌がる千鶴も
今ばかりは抵抗をしない。


思った通り、千鶴自身も寒いのだろう。
近くへと寄せられた人肌のぬくもりに素直に甘えてくる。




「………やはり、冷え切っているな」




男の中で見ると、線の細い方である一でさえもすっぽりとつつめる程に千鶴は華奢で。
守ってやらなければ、壊れてしまうのではないかと思ってしまう。


こちらを見つめる大きな瞳に、自分自身の姿が映っているのが分かる。
それは不思議な光を放っており。






………お前のことが、どうしようもなく、愛しい。





互いの瞳に灯る熱に吸い寄せられる。
千鶴が目を閉じたのと唇が触れあったのは同時だった。





いつの間にか、ちらちらと降り始めた雪が、二人を飾る。











Fin.....




正月ss、斎藤さんのです^^

いやー……正月までにできあがってはいたんですが……
なにしろパソのデータがと ん  だ  w

私のぱそこん鬼畜すぎて困る



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